電子マニフェストとは?導入の流れまで解説
目次
産業廃棄物業界において、マニフェストは「産業廃棄物管理票」を指す言葉です。産業廃棄物管理票とは、廃棄物が適切に処理されているかどうかを確認する書類のこと。それをインターネット上で登録・報告する仕組みが「電子マニフェスト」です。
この記事では電子マニフェストの基本的な知識や導入するメリット、導入までの流れをわかりやすく紹介していきます。
産業廃棄物を取り扱っている事業者の方で、電子マニフェストの導入を考えている方は参考にしてください。
電子マニフェストとは?
電子マニフェストとは文字どおり、産業廃棄物管理票を電子化したものです。まずはマニフェストの基本的な知識から解説します。
そもそもマニフェストとは
マニフェスト(産業廃棄物管理票)は、産業廃棄物を排出する業者が処理状況を正確に把握・管理するため、処理業者に対して交付する書類です。
例えば建設工事で排出された廃棄物なら、工事の元請会社が排出事業者に当たり、収集運搬業者や処分業者に対してマニフェストを交付します。
排出業者は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」に基づく制度により、マニフェストを交付して処分が終わるまでの過程を確認しなければなりません。
排出業者にマニフェストの交付を義務付けたこの制度を、マニフェスト制度と呼びます。
マニフェスト制度の目的
マニフェスト制度の目的は、不法投棄などの違法な処理を防ぐことです。産業廃棄物の収集運搬や処分を他社に委託する場合には、管理が行き届きにくくなります。そこで委託契約どおりの収集運搬や処理が行われているかどうかの確認が制度として義務づけられました。
電子マニフェストの仕組み
マニフェストは従来、紙の管理票で交付されていました。しかし、紙の管理や保管にはマンパワーが必要です。また紙の伝票に手書きで記入すると、記載ミスや記入漏れなどが起こりやすくなります。
そこで業務の効率化と記載ミス防止のため、1998年12月から運用開始されたのが電子マニフェストです。
電子マニフェストでは、紙の書類に記入していた情報を電子化し、情報処理センターを介したネットワークで共有して、効率的な運用と管理を実現できます。
情報処理センターとして指定されているのは、公益財団法人日本廃棄物処理振興センター(JWセンター)です。利用するためには、日本廃棄物処理振興センター運営の「電子マニフェストシステム(JWNET)」に加入しなければなりません。
排出事業者だけがJWNET加入していても、取引先の処分業者が未加入なら、JWNETを利用できません。未加入の業者は委託を受けられないケースも出てくるため注意してください。
2020年4月からは、前々年度の特別管理産業廃棄物(PCB廃棄物を除く)の発生量が50トン以上ある排出事業者に対して、電子マニフェストの運用が義務付けられました。今後もマニフェストの電子化は加速していくと予想されています。
出典:環境省「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」
https://www.env.go.jp/recycle/waste/laws.html (2022-07-20)
出典:公益財団法人日本廃棄物処理振興センター「電子マニフェストとは」
https://www.jwnet.or.jp/jwnet/about/index.html (2022-07-20)
電子マニフェストを導入するメリット
紙マニフェストの非効率性を改善するために導入された電子マニフェストには、さまざまなメリットがあります。
以下が主なメリットです。
- 事務処理の手間を軽減できる
- 法令遵守を徹底できる
- 処理状況を把握しやすい
これらのメリットから、多くの事業者が電子マニフェストを導入しています。
ここでは導入のメリットをそれぞれ具体的に見ていきましょう。
事務処理の手間を軽減できる
電子マニフェストを導入すれば、紙マニフェストの事務処理にかかっていたマンパワーを削減できます。紙の管理票は手書きで記入しなければなりません。記載ミスや漏れも生じやすく、修正や対応にもマンパワーが必要になります。
電子マニフェストなら、システムが記入項目を管理するため、記載ミスや漏れに気付きやすくなります。1つの画面で全ての情報が入力できるため、入力も簡単です。パソコンでの作業やインターネットが不得手な方でも、問題なく操作できるでしょう。
また紙マニフェストでは、毎年1年分のマニフェストの交付報告が義務付けられていますが、電子マニフェストではJWセンターがまとめて報告します。わざわざ管理票を集計して報告の用意をする手間もかかりません。
法令遵守を徹底できる
廃棄物処理に違反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられますが、電子マニフェストは法令の遵守にも適したシステムです。
JWセンターに登録された情報には、登録した排出事業者や処理業者がいつでもアクセス可能。3者がいつでも情報を閲覧・監視できるため、不適切な登録や報告があればすぐに判明します。
期限が定められている「運搬終了」「処分終了」「最終処分終了」の報告も、電子マニフェストなら確実です。電子メールなどで確実に排出事業者に伝達され、期限が近づくと注意喚起もしてくれます。
紙マニフェストは管理票を5年間保管する義務がありますが、電子マニフェストはJWセンターがデータを保管します。紙のマニフェストを取っておく必要がなく、大切な情報を紛失してしまうこともありません。
処理状況を把握しやすい
紙マニフェストでは、排出事業者に管理票が返却されて終了報告を受けるまで、廃棄物の状況がつかません。
一方、電子マニフェストは処理状況をリアルタイムで確かめられます。排出事業者・運搬業者・処分業者はリアルタイムで現状を把握でき、必要なときに契約内容を確認したり、処理データをダウンロードして集計したりできます。
紙の場合、さまざまな書類の中から契約書や伝票を探す必要がありましたが、そうした負担がかかりません。
電子マニフェストを導入する際の流れ
まずは運用開始までのフローを理解しておきましょう。電子マニフェストを導入する際に行うのは、次の6つのステップです。
1.3業者が加入しているか確認する
2.パソコンを準備する
3.加入単位を決める
4.料金区分を選択する
5.社内外の運用方法を決定・周知する
6.加入手続きを行う
それぞれを詳しくみていきましょう。
1.3業者が加入しているか確認する
電子マニフェストを利用するためには排出事業者、収集運搬業者、処分業者の3業者がJWNETに加入している必要があります。まずは産業廃棄物の処理を委託する取引先が加入しているかどうかを調べましょう。
加入しているかどうかは、JWセンターのWebサイトにある「加入者検索」で確認できます。ただし、加入者検索で確認できるのは「公開の承諾を得た加入者のみ」です。公開していない可能性もあるため、検索できない場合は取引先に確認してください。
※外部リンク
JWセンターの「加入者検索」https://www.jwnet.or.jp/jwnet/about/lsearch/searchsb.html
2.パソコンを準備する
電子マニフェストを使用する場合には、インターネットを利用できるパソコンが必要です。ソフトをインストールする必要はなく、簡単な操作でマニフェスト登録、報告が可能です。
念のためパソコン版の利用推奨環境に該当しているかどうか確認してください。JWセンターが動作確認済みのOS環境は、Windows 10・11、Mac X10です。
通知情報のメール受信や、加入者サブ番号の仮パスワード受信のためにはメールソフトも必要です。マニフェスト情報の単票(受渡確認票)などを印刷するために、PDFファイル表示ソフトやプリンタもあるとよいでしょう。
出典:公益財団法人日本廃棄物処理振興センター「電子マニフェストのアクセス方法」
https://www.jwnet.or.jp/jwnet/about/access/index.html#suisho (2022-07-20)
3.加入単位を決める
電子マニフェストには排出事業者・収集運搬業者・処分業者が、それぞれ加入します。加入委託契約している事業場ごとの単位で加入する必要はなく、1加入で複数の委託契約先が設定できます。
それぞれの加入単位の概要は以下のとおりです。
【排出事業者】
排出事業者は任意で、排出事業場単位または排出事業場を管轄する本社・支店・営業所などの単位で加入できます。
【収集運搬業者】
任意で業者単位または支店、営業所などの単位で加入できます。
【処分業者】
処分事業場ごとの単位で加入可能です。同じ敷地の中に中間処理施設と最終処分施設がある場合も1つの事業場として加入できます。
出典:公益財団法人日本廃棄物処理振興センター「加入の単位」
https://www.jwnet.or.jp/jwnet/practice/flow/member/index.html (2022-07-20)
4.料金区分を選択する
排出事業者が負担する料金には、登録件数が多く多量の情報を取り扱う場合に適した「A料金」と、登録件数が少なく少量の情報を取り扱う場合に適した「B料金」があります。
年間の登録件数が2,400件を超えるようならA料金の方が安くなります。
■排出事業者
料金区分 |
A料金 |
B料金 |
基本料(1年間) |
26,400円 |
1,980円 |
使用量 (登録情報1件につき) |
11円 |
(90件まで無料) 91件から22円 |
■収集運搬業者
利用区分 |
収集運搬業者 |
基本料(1年間) |
13,200円 |
■処分業者
利用区分 |
処分報告機能のみ※ |
基本(1年間) |
13,200円 |
※処分終了報告・最終処分終了報告を行う機能のみの料金です。
※上記と併せて「2次マニフェスト登録」をする場合、別途料金がかかります。
出典:公益財団法人日本廃棄物処理振興センター「利用料金」
https://www.jwnet.or.jp/jwnet/youshiki/payment/fee/index.html(2022-07-20)
5.社内外の運用方法を決定・周知する
電子マニフェストを導入するなら、運用のルールを決めておく必要があります。
特に「操作場所と廃棄物の排出事業場が異なる」場合や、「排出事業場で廃棄物の引渡し担当者と入力担当者が異なる」場合などは、どの単位で加入・管理するのかを決めましょう。
ケースとしては以下の3つの管理方法が考えられます。
- 排出事業場単位で加入・管理
- 本社・支店・営業所単位で加入し、本社が電子マニフェストを管理
- 本社・支店・営業所単位で加入し、それぞれで加入者サブ番号を使用して管理
加入・管理の単位と運用ルールを決めたら、社内および取引先(排出事業者・収集運搬業者・処分業者)を含めて、運用方法や操作方法を周知しておきましょう。
出典:公益財団法人日本廃棄物処理振興センター「STEP3運用方法の検討」
https://www.jwnet.or.jp/jwnet/practice/flow/step/step3/index.html (2022-07-20)
6.加入手続きを行う
JWNETを利用するには、JWNETのホームページから加入手続きをしてください。電子マニフェスト加入手続きは以下の4つのステップです。
STEP1:ホームページの加入申込メニューから担当者とメールアドレスの登録
STEP2:届いたメールから加入申込み画面へアクセス
STEP3:加入者情報の登録
STEP4:入力された加入者情報の確認
通常は申込んだ当日中に利用を開始できます。21時以降に申込んだ場合、翌日からの運用が可能です。
出典:公益財団法人日本廃棄物処理振興センター「電子マニフェストガイドブック」
https://www.jwnet.or.jp/uploads/media/2019/04/20190424134509.pdf (2022-07-20)
まとめ
電子マニフェストは産業廃棄物の処理に関わる手続きを効率化できる便利なシステムです。
導入すれば事務処理の手間を省くだけでなく、リアルタイムでの状況把握や、法令遵守にも有効でしょう。
手続きはWebで完結、早ければ当日からの運用も可能です。
産業廃棄物の排出事業者や処理業者の方は、ぜひ導入を検討してみてください。
この記事を書いた人

山本 智也代表取締役
資格:京都3Rカウンセラー・廃棄物処理施設技術管理者
廃棄物の収集運搬や選別、営業、経営戦略室を経て代表取締役に就任。
不確実で複雑な業界だからこそ、わかりやすくをモットーにあなたのお役に立てる情報をお届けします。