産業廃棄物のPCBについて処理方法や処理費用を解説
目次
PCB廃棄物は、人の健康や生活環境に被害を生ずる恐れがある特別管理産業廃棄物に指定されており、その管理や処理について廃棄物処理法などで規定されています。
ここではPCBとはなにか、PCB廃棄物にはどのようなものがあり、その処理はどうすればよいか、処理にはどの程度の費用が必要かなどについて解説します。
そもそもPCB廃棄物とは
PCB廃棄物とはPoly Chlorinated Biphenyl(ポリ塩化ビフェニル)の素材を含んだ破棄物のことです。以下で詳しく説明します。
PCBとはなにか
PCBはPoly Chlorinated Biphenyl(ポリ塩化ビフェニル)の略称です。PCBは水に溶けにくい、熱で分解しにくい、電気絶縁性が高いなどの特徴を持つ合成油で、高圧・低圧の変圧器やコンデンサなど電気機器の絶縁油や油圧オイルなどの潤滑油、感圧複写紙(ノーカーボン紙)などに使用されていました。
しかし1968年にPCBが食用油に混入して健康被害が出たカネミ油症事件の発生に伴って、1972年に製造が中止されました。
PCB廃棄物とはなにか
PCB廃棄物とは、PCBを使用した製品の廃棄物で、PCBを使用した変圧器、コンデンサ、廃PCB油、PCBが付着した布や容器、PCBに汚染された汚泥などがあります。
廃棄物処理法では「爆発性、毒性、感染性その他人の健康又は生活環境にかかる被害を生じるおそれがある性状を有する廃棄物」を「特別管理廃棄物」に指定し、産業廃棄物であれば特別管理産業廃棄物に分類されます。以下では、PCBが含まれている製品について紹介します。
高圧トランス
高圧トランスは高圧化で使用される変圧器のことで、必要な電圧に上げたり下げたりする装置です。主に工場や商業施設、病院などの大規模電力消費施設で使用されます。1953年から1972年に国内で製造されたトランスやコンデンサには絶縁油にPCBが使用されたものがあります。
業務用照明器具(安定器)
蛍光灯などの業務用照明器具では、力率改善用(同じ消費電力に対して安定器の入力電流を少なくして電源設備容量を少なくすること)の安定器にPCB入りコンデンサが使用されているものがあります。
オフィスや教室に使用する蛍光灯器具、高天井の建物や道路に使用する水銀灯器具などでは、1957年1月から1972年8月までに製造されたPCBを含む安定器が使われている可能性があるので気をつけなくてはいけません。
高圧コンデンサ
高圧コンデンサは、電気を一時的に蓄えたり電圧を調整したりする役割を果たす装置で、中小零細事業者を含むさまざまな業種で使用されています。
PCBは高圧コンデンサの絶縁油として内部に充填されていて、例えば100kVAの場合、約35kgのPCBが使用されています。(※)1953年から1972年に国内で製造されたコンデンサは。PCBが使用されている可能性があるため注意が必要です。
※出典元:環境省パンフレット|ポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物の期限内処理に向けて
https://www.env.go.jp/recycle/poly/pcb-pamph/panfur4_web.pdf
家庭用電気製品
PCBが家庭用電気製品に使用され始めたのは1953年からで、1972年8月末に使用禁止になっています。
その間、800トン程度のPCBが家庭用電気製品に使用されました。PCBが使用された家庭用電気製品は電子レンジ、ルームクーラー、テレビの3品目で95%を占めます。(※)
※出典:PCB使用部品を含む廃棄家電製品の処理について|環境省
https://www.env.go.jp/hourei/11/000628.html
PCB廃棄物は2種類に分けられる
PCB廃棄物は、含有するPCB濃度や付着したPCB濃度によって、高濃度PCB廃棄物と低濃度PCB廃棄物に分けられます。それぞれについて、以下で説明します。
高濃度PCB廃棄物
高濃度PCB廃棄物は、意図的にPCBを大量に使用した機器で、上述の業務用照明器具(安定器)や高圧トランス、高圧コンデンサなどが該当します。PCB濃度が0.5%(5,000ppm=5,000mg/kg)を超えるものは高濃度PCB廃棄物に分類されます。
PCBを使用した製品は1972年に生産が禁止されているので、それ以降に生産された機器にはPCBが高濃度に含まれることはありません。
この高濃度PCB廃棄物処理を推進するため、2001年6月に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」(PCB特別措置法)が公布され、2004年以降、全国5カ所に処理施設が整備されました。
処分先
国は高濃度PCB廃棄物に対して「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画」を策定し、それに基づいて中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)が処分しています。
処分までの手続きの流れと処分先は、以下のとおりです。
1.県あるいは政令市に処分機器の保管の届け出を提出
2.JESCOへ登録
3.JESCOが開催する処理説明会へ参加
4.処分委託契約の締結
5.処分先
・変圧器、コンデンサ、PCB油、保管容器等:JESCO東京PCB処理事業所(江東区)
・安定器、ウェス、汚染物、感圧複写紙等:JESCOの北海道PCB処理事業所(室蘭市)
処理費用
PCBを使用した高圧トランス・低圧トランスなどの処理料金は、3kg以上~10kg未満の機器の場合は、処理料金(円)=30,800(円/kg)×1台当たりの総重量(kg)です(kg未満は切り捨て)。なお運搬費は別途発生します。
10kg以上の機器は例えば、10kg以上~15kg以下が442,000円(税込)で、機器の重量が大きくなるにしたがって料金が高くなるように設定されています。
コンデンサ類は、10kg未満はトランス類と同様ですが、10kg以上は最低で494,000円(税込)です。
https://www.jesconet.co.jp/content/000000609.pdf
低濃度PCB廃棄物
PCB濃度が0.5%(=5,000ppm)以下の、意図しないでPCBに汚染された廃棄物および微量PCB汚染廃電気機器等(PCBを使用していないとする電気機器等であって、数ppmから数十ppm程度のPCBに汚染された絶縁油を含むもの)については、低濃度PCB廃棄物に分類され、適正な処理が求められています。
2002年に国などが行った調査では、PCBを使用していないトランス等の重電機器が微量のPCBに汚染されていることが明らかになりました。環境省によると低濃度PCB廃棄物及び低濃度PCB使用製品は、2016年3月31日時点で柱上変圧器以外の電気機器が約120万台、柱上変圧器が約100万台、OFケーブルが約1,400km存在すると推計されていますが、把握しきれていない状況です。(※)
※出典:「平成29年度低濃度PCB廃棄物の適正処理推進に関する検討会」の検討状況について|環境省
https://www.env.go.jp/recycle/poly/confs/tekisei/24pcb/mat03_1.pdf
これらの低濃度PCB廃棄物はPCB特措法により、保管事業者は2027年3月31日までに処分することが義務付けられています。PCB汚染の可能性の有無については、製造メーカーまたは一般社団法人日本電気工業会で確認できます。
処分先
低濃度PCB廃棄物は、環境大臣が認定する無害化処理認定施設あるいは、都道府県知事等が許可する施設で処分します。無害化処理認定施設は2018年2月現在で全国に35事業者があり、内訳は焼却方式24事業者、洗浄方式11事業者です。また都道府県知事の許可は5事業者で、焼却方式3事業者、洗浄方式1事業者、分解方式1事業者です。(※1)
処分までの手続きの流れは、まず県あるいは政令市に保管の届け出を提出した後、処分業者に見積もりを依頼し、納得できたら処分委託契約を締結して処分します。
環境省によると、無害化処理認定事業者により2010年から2020年までに処分された低濃度PCB廃棄物は、微量PCB絶縁油157,224トン、廃電気機器類(トランス・コンデンサ等)485,315台、小型コンデンサ6トン、その他PCB汚染物114,939トン、ドラム缶170,568本、PCB処理物2,244トンです。(※2)
※1 出典:「平成29年度低濃度PCB廃棄物の適正処理推進に関する検討会」の検討状況について|環境省
https://www.env.go.jp/recycle/poly/confs/tekisei/24pcb/mat03_1.pdf
※2 出典:廃棄物処理法に基づく無害化処理認定施設|環境省
http://www.env.go.jp/recycle/poly/facilities.html
処理費用
低濃度PCB廃棄物の処理費は、委託先によっても処理対象物の大きさや形状によっても変わります。このため処理費については、処分事業者に見積もりを依頼して確認する必要があります。収集運搬費は別途必要です。
PCB廃棄物特別措置法が施行
PCB廃棄物特別措置法は2001年7月に施行されました。前述のとおり1968年に起きたカネミ油症事件がきっかけで、1972年にPCBが行政指導によって製造が中止されました。しかしその後、処理施設の設置に住民の理解が得られず、ほぼ30年間にわたって保管状態に置かれました。
2001年にはPCB等残留性有機物質に関するストックホルム条約(POPs条約)が採択され、2025年までに使用の全廃、2028年までに適正な処分が求められるなど国際的な取り組みも変化しています。
日本ではPCB廃棄物の処理体制の整備と適正な処分を行うため、PCB廃棄物特別措置法が制定されました。同法ではPCB廃棄物処理基本計画の閣議決定、高濃度PCB廃棄物の処分の義務付け、報告徴収・立ち入り検査権限の強化などが定められています。
また低濃度PCB廃棄物については、2027年3月31日までの適正処分を規定しています。併せて、この日までに適正な処理が行われない場合は、3年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金が発生することや、高濃度PCB廃棄物の処理期限は遅くとも2023年3月31日とすることなどが定められています。低濃度PCB廃棄物の処理期限は2027年3月31日までです。
この他の規則としては、PCB廃棄物を保管する事業者は、前年度の保管・処分状況を毎年6月30日までに都道府県・政令市へ提出しなければいけない、などがあります。
産業廃棄物であるPCB廃棄物が見つかった場合は?
産業廃棄物であるPCB廃棄物が見つかった場合の対処法として、まず高濃度PCB廃棄物の場合、都道府県の担当課に連絡をします。
PCB廃棄物が処分されるまでの期間は、廃棄物処理法に定められたPCB廃棄物保管基準に従って保管しなければいけません。
保管基準は、以下のとおりです。
・周囲に囲いがあること
・見やすい箇所に、特別管理産業廃棄物の保管場所であること、保管する特別管理産業廃棄物の種類、保管場所の管理者の氏名・名称・連絡先、が記載された掲示板(縦・横それぞれ60cm以上)を設ける
・特別管理産業廃棄物が飛散、流出、地下浸透、悪臭発散しない措置を講ずる
・ネズミの生息、蚊やはえその他の害虫の発生がないようにする
・容器に入れ密封するなどPCBの揮発防止に必要な措置を講ずる
・PCB廃棄物が高温にさらされないための必要な措置を講ずる
・廃棄物の腐食防止に必要な措置を講ずる
また特別管理産業廃棄物が生ずる事業場では、廃棄物処理法施行規則で定める資格を有する特別管理産業廃棄物管理責任者を置くことが義務付けられています。また、特別管理産業廃棄物発生事業場設置報告書の提出も必要です
※出典:ポリ塩化ビフェニル(PCB)使用製品及びPCB廃棄物対策|愛知県
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/junkan-kansi/pcb-index02.html
※出典:産廃知識 特別管理産業廃棄物管理責任者|公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センター
https://www.jwnet.or.jp/waste/knowledge/tokubetukanri/index.html
PCB廃棄物の処理方法とは
ではPCB廃棄物の処理方法にはどのようなものがあるのでしょうか。環境省と経済産業省では、PCB処理を安全かつ早期に実施すべく新処理技術の評価を進めています。各処理方法の特徴や処理対象物は以下のとおりです。
水熱酸化分解
高温高圧(374度の超臨界状態)の熱水中でPCBを水酸化ナトリウムにより脱塩素化し、さらに酸化反応により、水・食塩・二酸化炭素に分解する方法です。廃PCBの他、紙くず、木くず、繊維くず、廃プラ、廃油、廃酸、廃アルカリなど幅広いPCB汚染物や処理物に対応できます。
脱塩素化分解
PCBの分子を構成している塩素とアルカリ剤等を50~350度、常圧で混合し、化学反応によって、PCB分子中の塩素原子を水素等に置換させ、ビフェニルなどPCB以外の物質にする方法です。廃PCBやPCB処理物の廃油、廃酸などに用いられます。
還元熱化学分解
還元熱化学分解法は、酸素のない還元雰囲気の高温(約1,400度)の溶融金属(Ni-Cu)中に酸素とPCBを入れ、高温溶融金属の持つ触媒作用により炭素を脱離させ、一酸化炭素、水素、塩素に分解します。廃PCB、PCB汚染物である紙くず、繊維くず、廃プラ、廃油など幅広く対応できます。
光分解
PCBとアルカリ剤などを約60度、常圧で混合し、紫外線(波長250~300nm)を照射してPCBを分解してしまう方法です。廃PCBやPCB処理物の廃油、廃酸、廃アルカリに用いられます。
高温焼却
高温焼却は1,100度以上の高温で燃焼して、ダイオキシン類の生成を防ぎながら二酸化炭素、水蒸気、塩化水素に分解して無害化する方法です。廃PCBや紙くず、廃プラ、廃油廃酸、廃アルカリなどの幅広いPCB汚染物に対応できます。
プラズマ分解
アルゴンガス等のプラズマ(気体分子が高度に電離した状態)を発生させて、3,000度以上の高温プラズマ中にPCBを噴霧注入することによって二酸化炭素、塩化水素等の構成する原子にまで分解します。廃PCBやPCB処理物の廃油、廃酸、廃アルカリなどはプラズマ分解が用いられます。
機械化学分解
機械化学分解法はメカノケミカル反応(機械的エネルギーで化学変化を起こすこと)の原理を活用し、機械的エネルギーを粉砕操作で付与してPCBを非加熱分解します。有機塩素化合物を生石灰と一緒に密閉容器に入れ、生じた塩素と生石灰の化学反応で塩化カルシウムなどとして除去します。PCB汚染物の紙くず、繊維くず、廃プラ、金属くずなどに使用されることが多いです。
溶融分解
処理対象物を千数百度以上の高温で溶融分解する方法です。PCB汚染土壌に対しても適用されています。有機物は分解・ガス化される一方、無機物はガラス固化体や金属体になります。PCB汚染物の紙くず、木くず、廃プラ、陶磁器くずなどに対応できます。
洗浄
PCB汚染物(トランス、コンデンサ等)を解体し、各部材を溶剤で洗浄します。溶剤は回収して、PCBを分離・除去後再利用されます。PCBは化学処理で無害化されます。PCB汚染物やPCB処理物の紙くず、繊維くず、廃プラなどに対応可能です。
分離
真空加熱炉内でPCB汚染物からPCBを蒸発させて取り除く方法です。内部構造が複雑な柱上トランス、コンデンサなどの電気機器にも対応でき、容器はスクラップとしてリサイクルでき、PCBは液体で回収して化学処理により無害化します。PCB汚染物やPCB処理物の紙くず、廃プラ、金属くずなどに用いられます。
まとめ
PCBは高い絶縁性などの特徴があることから、かつては高圧トランスや高圧コンデンサなどの電気機器に利用されましたが、人体への健康被害が発生したため1972年に国内の製造が中止になり、国際的にもストックホルム条約(POPs条約)で2028年までに適正な処分が求められています。
しかし国内ではPCBを無害化する処理施設の建設に住民同意が得られず、PCB廃棄物は製造中止から約30年間保管されたままでした。このため国では2001年にPCB廃棄物特別措置法を施行し、現在、適正で安全な処理が推進されています。
高濃度PCB廃棄物は中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)の全国5カ所の施設で処理されていて、処分期限は最も遅い地域で2024年3月31日です。また低濃度PCB廃棄物は、環境大臣が認定する無害化処理認定施設及び都道府県知事等が許可する施設で2027年3月31日までに処分することになっています。
この記事を書いた人

山本 智也代表取締役
資格:京都3Rカウンセラー・廃棄物処理施設技術管理者
廃棄物の収集運搬や選別、営業、経営戦略室を経て代表取締役に就任。
不確実で複雑な業界だからこそ、わかりやすくをモットーにあなたのお役に立てる情報をお届けします。